ココロトピックス

2016/12/12

No.94

「自閉症」のサルを世界で初めて確認

「自閉スペクトラム症」の原因解明に光明

自然科学研究機構生理学研究所(愛知県)をはじめとする研究チームは、対人関係に問題を持つ「自閉スペクトラム症」と同じ症状を持つサルを確認したと今年11月米科学誌「サイエンスアドバンス」電子版に発表しました。


人間以外の霊長類で遺伝子操作なしに自閉スペクトラム症が確認されたのは世界で初めてのこととみられます。


「自閉スペクトラム症」は自閉症などの発達障害の総称で、人とのかかわりが苦手で社会適応力が低く、特定の行動を反復するなどの特徴があり、100人に1人という高率で発症します。


その原因としては、遺伝説を筆頭に神経発達障害説、感染説に至るまでさまざまな説がありますが、これまで決定的な証拠はありませんでした。しかし最近、九州大学の研究所が「CHD8」と呼ばれる遺伝子の変異によって同症が発症する仕組みを解明。遺伝子説に新たな根拠を与えていました。


人間と同じ自閉症関連「遺伝子」に変異

一方今回の発見では、研究所で飼育されていたニホンザルのうち1匹だけ、人になつかず自分の爪を噛むのを反復するなど、自閉スペクトラム症によく似た特徴を持つサルに注目。当該サルの他者の行動を読み取る能力を知るための実験を行いました。


実験では、まず当該サルを他のサルと対面で座らせ、二匹に交互に色の違う2つのボタンのうちの1つを触らせます。そして、当たりのボタンを触ると二匹ともジュースがもらえるようにするとともに、しばらくは当たりの色を変えないことで相手の選択を見ていれば当たりの色が分かるようにしました。


そして実験の結果、当該サルは相手の行動を見ないでボタンを押し続け、他者の行動を読み取る能力に欠けることが明らかになったのです。


さらに遺伝子解析の結果、当該サルにおいて人間の自閉スペクトラム症の原因と共通する二つの遺伝子に変異がみられました。また、当該サルの脳の働きを調べると、他者の行動情報を処理して反応する神経細胞が他のサルに比べて非常に少なかったことも明らかになりました。


今回の実験成果により、生物学的にヒトに近いサルの症例を詳しく調べることで、これまで不明だった自閉スペクトラム発症メカニズムの解明につながることが期待されています。