ココロトピックス

2023/04/03

No.123

狙われる”繊細さん”

生きづらさの正体としてブーム

「繊細さん」をご存知ですか? 
HSP(Highly Sensitive Person)ハイリー・センシティブ・パーソンといって、特徴のある気質をもった人のことを指します。
アメリカの心理学者エレイン・アーロンが、HSP気質を測定する心理尺度を作成しました。

● 「小さな音や匂いも気になってしまう」
● 「映画やドラマの暴力的なシーンが苦手」
● 「たくさんのタスクをこなさなければならなくなると、混乱してしまう」
● 「他人の気分に振り回されやすく、対人関係に疲れがち」

「言われてみれば、わたしもそうかも」と思い当たるひともいるかもしれません。
こうした悩みの原因となっている気質(性格の傾向)の持ち主を日本では「繊細さん」と名づけました。書店にいけばにいけば、「繊細さん」をタイトルに冠した本が数多くならんでいます。

日常生活で感じている(でも共感されることのすくない)苦しさを言い当てた部分があるのでしょう。ブームと言える盛り上がりをみせています。




必要な支援につながれなくなることも

一方で、「繊細さん」ブームに弊害があるという指摘もあります。

ひとつは、自己診断の弊害です。HSPは性格の傾向であり、こころの病気や発達障害ではないということが、HSPの受け入れやすさの根拠となってきました。

自分の子どもに「この子は、HSC(Highly Sencitive Child)だから、発達障害ではない」と検査や支援を拒否する保護者がでてきているのです。

もうひとつは、根拠のいかがわしい資格商法や自費治療の蔓延です。
科学的には、HSPは性格の傾向を測定する尺度でしかありません。
HSPという特性からくる生きづらさにつけこんで、ことさらHSPであることを「特別な能力・素質」の持ち主であるかのように強調し、HSPカウンセラーといった民間資格の講座へと誘導する。 ぎゃくに不安を煽って、脳波によるHSP診断やTMS治療(磁気を脳にあてる治療)の自費治療を売り込むといったことが行われています。治療を入り口にカルト団体やスピリチュアル系のマルチ商法への勧誘といったことも行われているようです。

HSPは自分を知る一助にはなるものですが、科学的でない情報も多く出回っていることに注意しましょう。

*TMS治療については、日本精神神経学会が注意喚起を行っています
「(TMS治療は)18 歳未満の若年者への安全性は確認されておらず、子どもの脳の発達に与える影響等は不明です。発達障害圏の疾患(自閉症、ADHD、アスペルガー障害など)やそれに関連する症状、あるいは不安解消や集中力や記憶力の増進などに対する効果は、海外においても確認されていません。」




参考資料:
飯村周平『HSPブームの功罪を問う』岩波ブックレット

「rTMS(反復経頭蓋磁気刺激装置)の適正使用について【注意喚起】」 日本精神神経学会2020年9月